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放射線療法、医師の同意得られず…

敬一さんは、ひとまずは脊髄の炎症やむくみを少しでも緩和させるためにステロイド剤の大量投与を行わせてほしいと説明された。加えて、第2段階のイレッサの使用について、牧野医師から説明を受けたのち、処方についての意見を聞かせてほしいと言われた。和子さんは放射線療法を熱望していた。その旨を敬一さんは牧野医師に伝えたが、和子さんのガンが、放射線療法が殆ど効果のない腺ガンであることが説明され、牧野医師は実施に同意しなかった。

敬一さんから説明を受けても、和子さんは納得していなかった。

「私は放射線療法をやってほしいのに、どうして最初からやらないって決めてしまうのかしら。私のことなんだから、私の意見を尊重すべきでしょ、先生は。やる前から諦めるなんて、ほんと考えられないわ。他の病院にも相談しておいた方がいいのかもしれない。だいたい化学療法だって、一度うまくいかなかったからもうやらないなんて、それだって私に決める権利があるはずよ。どうせもう髪の毛はほとんど抜けてしまってないわけだし、そんなに気持ち悪くなかったから、私はもう1回やってほしいわ。イレッサと同時にやってくれればいいのよ」

あまり口に出すことはなかったが、現在の主治医の方針に和子さんは全然納得していなかった。どうしても、どんなことをしても、自分の肺ガンを治したかったのである。

入院後2か月が経った日、牧野医師から大事な話があると言われた敬一さんは病院に少し早めにやって来た。和子さんの看病に日参してはいたが、「大事な話」なんて言われると、いつもと違う気持ちになるから不思議である。

約束の11時に病棟の相談室で、牧野医師の説明を聞くことになった。今回は和子さんも同席の上で、話がされることになっていた。

「田中さんの肺ガンは、今のところイレッサによる効果もなく、背骨の転移性腫瘍は入院時よりも悪化しています。他の治療も効果が期待できないので、今後はいかに症状をコントロールするかという点に治療方針を絞ることが、大事なことであると私は考えています。さらに少しでもガンの腫瘤を小さくするための治療を行うとすれば、放射線療法のみが選択しうる治療だと思います。

ただし、効果は最初から期待があまりできない治療法です。腫瘤が少し小さくなっても決して消えることはないでしょう。それに肺野に痛みが出たり、皮膚に潰瘍ができたりと、ご本人にとって不快な副作用がたくさん出現することになるかもしれません」