語りを紹介しなかったインタビュー協力者の中にも、自宅出産を望み出産に立会ってくれる開業助産師を探したがいなかった(探すことができなかった、含む)、通える範囲に助産所がなかった、あるいは開業助産師と接点を持ちながらも『助産業務ガイドライン』の規制などを理由に立会いを断られたなど、助産師の立会いによる出産ができなかったことがプライベート出産選択の動機の一つになっていた人が多数います。

例えば、インタビューを行った2015年、2016年は、北海道では助産所は札幌市と、旭川市、釧路市にあるのみで、助産所の出産を選択できるところに住む人は限られていました。

北海道でプライベート出産したD・Aさんは第2子を、H・Bさんは第1子第2子を助産所で出産しましたが、2時間かけて通い、出産時は陣痛中にそれ以上の時間をかけて(ゆっくりの運転で)移動しています。そして両者ともにその後の出産は、プライベート出産を選択しました。おふたりが助産所で出産した後にプライベート出産を選択した理由の一つには、移動の問題もあり、両者ともに負担を強く訴えていました。

北海道以外に、佐賀県や新潟県でプライベート出産した人も同様に、1時間以内で来てもらえる場所に開業助産師がいないため選択していました。奈良県の方は、通える範囲にあった助産所が閉院されたタイミングで妊娠し、プライベート出産を選択していました。

また、助産所で出産予定だったものの血液検査で異常が見つかり、リスクがあるという理由で助産所では引き受けてもらえなくなり、プライベート出産を選択した人もいました。

このようにプライベート出産の選択には、開業助産師の偏在と、さらには『助産業務ガイドライン』の規制によって、「助産師の移動は原則1時間以内に制限」され、「助産所で扱える分娩も制限」され、開業助産師の立会いによる出産が望めないことが大きく影響していました。

この影響を受けたのは2014年や2015年など、インタビューの直前にプライベート出産した人に多く、第1章で示した助産所の衰退の影響が、年々大きくなっているのではないかと考えます。

以上のように、インタビューに応じてくださった方々がプライベート出産を選択した動機から、現代の日本の出産環境は、医療化により、産む側の意志よりも医療側の判断基準が優先され、妊産婦が医療不信に陥るほど「管理的」だということ、そして、自然出産を望む女性たちが開業助産師の立会いによる出産を望んでも、実現しにくい状況にあることが浮き彫りになりました。

プライベート出産は、社会的に非常識な行為とみなされ、医療者は危険性を危惧し制止しようとしていますが、体験者らへのインタビューによって、彼女らは自らの出産観をもとに出産方法を選択した結果、医療者が立会う環境では望む出産ができないために、プライベート出産に臨んでいることがわかりました。

女性には自分の望む出産を選択する権利があります。したがって、より自律的な出産を望む女性の意図が理解され、その選択とその安全性が保障されるための出産環境の構築が必要です。

特に、助産所の衰退によって、開業助産師のサポートを受けられないことがプライベート出産選択への動機のひとつとなっていることを考慮すると、助産所の存続、発展が望まれます。