医療者との関係性を重視するようになったA・Hさん

出産に対する思想が確立し、第1子からプライベート出産したA・Hさんは、前記のごとく、第3子の妊娠中に医師から出産方法を聞かれ、プライベート出産の意向を伝えたところ、誓約書を提示され、好意的な対応と受け取りサインしました。

そして、出産後胎盤が出ず、病院に行って処置を受けることができました。そういったこともあり、「プライベート出産を選択する人の中から医療を批判する声が聞こえるけれど、プライベート出産の選択は、医療との対立ではない」と強調しています。

さらにA・Hさんは、現代の女性たちは、病院に頼りすぎて自分で産もうとする力が失われており、結果的に自然に陣痛が起こらず、陣痛促進剤に頼るお産になっているのではと考え、D・Aさん同様に地域に助産所が必要と、次のように訴えていました。

「昔はもちろんお産婆さんがいて家で産んでるっていう、ああいう生活にみんな戻れたら絶対的に良いと思うし、(略)(現代では)自宅分娩で助産師さんが来てくれるっていう方法もありますよね。で、来てくれないエリア、来てくれる人がいないエリアだったんですよ。(略)(このエリアは産み場所の)選択肢がない。まず、病院か家で産む(プライベート出産)かどっちかだ、みたいな選択肢しか。ぜひ私的には、赤ちゃんを産める助産院が1個でも多く各地にできてほしいって、本当に願ってます」

医師の協力のもとに、安全に出産を終えたA・Hさんは、医療関係者との関係性を重視しつつ、居住地に出産場所や出産方法の選択肢がない環境を問題視しています。

そして、産婆が自宅で出産に立会っていた時代の出産環境を理想とし、分娩を取り扱う助産所が必要と開業助産師の活動を求めていました。

プライベート出産を成す意味

文化人類学者の吉村は、

「何を良い出産と見るかは地域や時代と直結しており、妊産婦がどのような出産方法を選択するかは、その女性やカップルが身体をどのようなものとみなし、お産をどのようにとらえ、その結果、どのようにお産することが、自分や生まれてくる子の心身に負担がなく、安全で納得できるとみなすのか、という宇宙観や身体観などと同じ根底をなす文化によって決められる」

と言い、そして、民俗学者の佐々木は、

「女性に備わった産み出す力の営みである〈出産〉は、生理学的には普遍であっても、文化的社会的要因によって変化し、女性の身体観や出産観の変化に伴い〈出産〉そのものの意味も変化する」

と言っています。

では、プライベート出産体験者らは、その体験を通して何を得たのでしょうか。語りから浮き彫りになった彼女らが重要視する体験内容は、次の通りです。