そこまで考えると「呪い」が、にわかに真実味を帯び始めた。青年はそんな俺の表情を見て心中を察したのか、

「原因が分かれば対処できる。心配するな」

その声は落ち着いていて、頼もしく感じられた。が、次に、彼は沈痛な表情になった。

「俺の頼みを聞いてもらえないか」

真剣な表情で発せられた「頼み」という言葉に思わず身構える。「頼み」や「相談」というものは、真剣なものであればあるほど、なんとかしてあげることが難しいと経験上知っている。でも反面、納得もいったし、少し安心もした。どんなに良いやつだろうと、無条件で見返りも求めず人のために動けるなんてやっぱり信じられない。そんなことしてくれるのは家族くらいだろう。だから冗談めかして言ってやった。

「等価交換ってやつだな」

彼は怪訝な顔をした。俺の言っていることが分からない様子だった。構わず続ける。

「それで、どんなことだ?」

「人助けだ。詳しいことは、今度会った時話す」

そう言って立ち去ろうとする彼を呼び止めた。

「あ、待って」

「なんだ?」

「名前は?」

そう口にして、ふいに懐かしくなった。新しい友達をつくる時の感覚。なぜ、最近はそういうことがないのだろう。新しい人には出会っているはずなのに。

「俺は桃太郎。桃って呼ばれている」

感傷は消し飛んだ。桃太郎? これは色々な意味で突っ込んだ方がいいのだろうか? 一瞬考えたが、結局俺も名乗るだけにした。

「怜です。りっしんべんに命令の令でレイ。友達はよくカタカナで俺の名前書くけど」

「良い名前だな」

単純に嬉しかった。実は俺も自分の名前を結構気に入っている。自分で言うのもなんだけど漢字で書いてもカタカナで書いても様になると思っている。名付けてくれた親に感謝だ。

帰り道、スマホで「シコクケン」を検索してみたら、俺の予想に反して実在する犬種だった。彼の話が本当のことなのか作り話なのかを断定するのは、保留にした。