それから夫は店内をうろつき

みつまめの缶詰を手に取ってみたり

塩らっきょうと酢らっきょうを見比べたり

私の選ばない高い方の豆腐をためつすがめつ眺めたり

またレジ回りに戻ったり

キャラメルを手に取ってみたり

また袋詰めする台を見回したり

しまいには幽霊のように

スーパーの中をさまよい出した

夫の後ろ姿をこうしてつくづく見ることなど

ついぞなかったが

猫背で頭もだいぶ薄くなって足元もおぼつかなくて

なんとまあ

頼りなげなおじいさんだこと

でもきっと

私も似たり寄ったりなおばあさんなのだ

そんな感慨にふけっていると

夫はとうとう

出入り口の自動ドアの前で立ち尽くした

ドアが何度も開いたり閉じたりする

行き交う人が邪魔そうに

けげんそうに夫を見ながら通り過ぎる

少々イタズラが過ぎたと反省し

後ろから近づき

肩をたたこうとした時

夫は急に早足でスーパーを出て行った

唖然とした

どこへ行く気だ

私はここにいるのに

慌てて私も

ずっと手に提げたままの

まだ買ってない商品の入ったカゴをそこらに置いて

スーパーを飛び出した

そういえば

たまにこんなふうに物の入ったカゴが

スーパーの通路に置きっぱなしになっていることがある

その人もこんな仕儀に相成ったのかしら

夫がエッチラオッチラ遠ざかるのが見える

その先にバス停がある

私が先に家に帰ったと思ったのだ

そこへバスが来た

夫がバスに乗り込む

しかし

息が切れてとても追いつけない

バスが行ってしまう

今生の別れになりはしまいか

ふと心細い気持ちになる

バス停のベンチに腰を下ろし

息を整える

なにを馬鹿な

家に帰れば夫はいる

けれどもバスはなかなか来ない