いたずらな運命~信頼とエゴの狭間で~

初めのうちは要領がうまくつかめず、なかなか売れなかったが、ある家でうまく売れてからは、コツがつかめたというのか、あるいは欲の皮の突っ張った人が多かったのか、売れるようになった。一口百万円もする商品を何口も買う人がいた。半年もたつ頃には、俺の銀行口座には大金が貯まっていた。

そろそろ、この仕事も辞めようかなと思っていたら、折よく会社から、次の一軒を最後に姿を消すように言われた。指定された相手は、女性の金持ちだった。これまでの相手は金持ち老人ばかりだったのに、今回の相手はまだ五十代の女性だったから多少面食らったが、思った以上に話が弾み、あっさりと売れてしまった。

さらに、その女性は銀行通帳を俺に手渡すと、俺に金を下ろしてくれと言ってきた。それまでは現金を用意してもらって、受け取るだけだったが、銀行に行くのはどうかと思って会社に連絡を入れると、すぐに会社の人がやって来て、銀行から預金を全額引き落として、俺に手数料を渡すと、

「もう、明日から会社には来るな」

と言いおいて、さっさと行ってしまった。

こうして、その女性が貯めていた数百万の預金は全額なくなってしまった。多少の後ろめたさはあったが、俺は姿を消すことにした。この仕事で稼いだ金を元手にして俺は株や国債などを購入し、金を増やしていった。やがて、その仕事は金融詐欺事件として世間を騒がすことになった。

警察が動き出したときには、俺はすっかり足を洗っていたし、会社の連中も素早く姿を消していた。履歴書も書かなかったし、身元を証明するものは何もなかった。金は全て手渡しでもらっていたので、俺の銀行口座の金はどこから振り込まれたものかも知られることはなかった。

その後もいくつかの仕事をしたが、体調を崩したので働くことはやめてしまった。株ではリスクもあることがわかった俺は、貯めた金を少しずつ食いつぶしつつ、何かモヤモヤしたものを抱えながら時を送っていた。