いたずらな運命~信頼とエゴの狭間で~

すぐに、田舎の母親に電話した。

母親は言った。

「騙されてないかい?」

俺はやっぱり、疑いを持つことも忘れていたようだ。

『たかが映画』、と思ったことはないが、詐欺をした自分自身が騙されることは、屈辱に等しかった。『同じ穴の狢』ということにはなりたくなかった。

だから、この話が本当かどうか、確かめる必要があった。連絡をくれたのは本人だったのかを確かめることにした。その監督はけっこう有名だったから、事務所はすぐにわかった。電話をすると、すぐに監督につないでくれた。電話をくれたのは本当にあなたなのか、というようなことを確認したら、監督は、間違いなく連絡をしたのは自分だと言った上で、

「ぜひ、映画にしたい」

と、答えてくれた。

俺は嬉しかった。俺は、うまくいくことを確信した。

おまえは選ばれたのだ。

何もかもうまくいくだろう。

何も恐れることはない。

おまえが今までやってきたことは、無駄じゃなかった。詐欺さえもだ。たぶん、神が決めていたのだ。追う立場から、追われる立場になっていくはずだ。これからは、おまえが一番になれるに違いない。きっとそうなる。疑いなくそうなるはずだ。

俺は舞い上がっていた。今は、大きなチャンスを必ず、必ず手に入れることだけを考えていた。いかなる手段を使ってもうまくやる。やれる。思うとおりに進まないことがあったとしても、やれるはずだ。

今までと同じ人生を送りたくない。

自分自身を疑う人生に終わりを告げる。

確実な人生を送るのだ。

俺は監督に選ばれた人間なのだから、確実に生きていこう。

話はそれたが、お互いをいい関係にする努力をしないといけない。監督と俺の関係を良くしなくては話が進まない。

そこで、俺も監督に会いたいと言うと、待っているからすぐに来てくれと言われた。