​(2)マニラを訪れる人たち

年に五、六回だがGHフィリピンの現地工場を見学したいというリクエストがあり、日本から工場視察ツアーがやって来る。受けるか受けないかは、そのツアーの目的を確認しメンバーに会社に敵対する人物がいるかどうかをよく調査してから判断する。特に参加メンバーの調査は一人一人慎重に行わねばならず、産業スパイが紛れていれば様々な独自技術が漏れてしまう危険性がある。そんなツアーの面倒を見るのも正嗣の仕事だった。

ツアー一行を連れてくるのは日本の旅行会社だし、マニラでホテルや食事、それにバスやガイドを手配するのはランドオペレーターと呼ばれる現地の旅行会社だ。よって基本は工場見学部分だけをケアすればよいのだが、取引関係のある会社の重役が来る場合は接待しなければいけない時もある。

先輩社員の畦上も何度も工場見学に同行したらしく、ツアーの対処法を聞いたが、真面目に視察してくれるツアーは世話のし甲斐もあるが、中にはそうでないツアーも多いという。工場見学後の質疑応答の際、的を射た質問をしてくるとよく見てくれていたのだなと思うし、質問が全然なかったり工場視察と全く関係ない的外れな質問をされたりすると、この人たちは真面目に見学してくれたのだろうかと疑ってしまう。

中には視察ツアーと銘打っていても、実は慰安旅行だったりすることもあるそうだ。役所に視察ツアーに行くと届け出をして帰国後レポートを提出すれば、かなりの補助金が出る場合もあるらしい。そのレポートにしても、現地で撮った写真にこちらで渡した資料を丸写しして作っているケースもあるというから呆れてしまう。