地蔵前(じぞうまえ)

私(わたし)はどのくらい眠(ねむ)ったでしょうか。車窓(しゃそう)からは緑(みどり)の山々(やまやま)と、一面(いちめん)が芝生(しばふ)におおわれた広々(ひろびろ)した大地(だいち)が見(み)え、近(ちか)くには小川(おがわ)が流(なが)れています。私(わたし)は、何(なに)か夢(ゆめ)のような気(き)がして、うっとりと景色(けしき)を眺(なが)めておりました。

青鬼(あおおに)「地蔵前(じぞうまえ)! 地蔵前(じぞうまえ)! 皆(みな)さん転(ころ)ばないようにゆっくり降(お)りて下(くだ)さいね!」

そう、あの青鬼(あおおに)の車掌(しゃしょう)さんの優(やさ)しい声(こえ)です。その声(こえ)に反応(はんのう)するかのように私(わたし)の前(まえ)に座(すわ)っていた赤(あか)ちゃん達(たち)は、スッと立(た)ち上(あ)がりヨチヨチ歩(ある)き出(だ)しました。

誰(だれ)に連(つ)れられるでもなく、皆(みな)仲良(なかよ)く並(なら)んで出口(でぐち)に用意(ようい)してあるすべり台(だい)に乗(の)って順々(じゅんじゅん)に降(お)りていきました。

が、不思議(ふしぎ)なことに、下車(げしゃ)すると同時(どうじ)に赤(あか)ちゃん達(たち)は皆(みな)お地蔵(じぞう)さんになって緑(みどり)のお山(やま)の方(ほう)へ向(む)かってヨチヨチ歩(ある)き出(だ)しました。小(ちい)さなお地蔵(じぞう)さん達(たち)はお揃(そろ)いの赤(あか)い前(まえ)だれをかけ、お山(やま)の方(ほう)へと歩(ある)いて行(い)きます。