地蔵前(じぞうまえ)

私(わたし)はかわいいお地蔵(じぞう)さんの後(うし)ろ姿(すがた)に手(て)を振(ふ)り見送(みおく)りました。

その時(とき)、一人(ひとり)のお地蔵(じぞう)さんがひょいとこちらを見(み)てニコニコしながら手(て)を振(ふ)りました。乗車(じょうしゃ)してすぐに挨拶(あいさつ)したあの赤(あか)ちゃんだなと思(おも)うと、涙(なみだ)が出(で)て私(わたし)も一生懸命(いっしょうけんめい)手(て)を振(ふ)り返(かえ)しました。

緑(みどり)のお山(やま)の入口(いりぐち)には風車(かざぐるま)がいっぱい立(た)てられていて、涼(すず)しい音(おと)を立(た)てながらぐるぐる廻(まわ)っております。丁度(ちょうど)音楽(おんがく)のような美(うつく)しい音色(ねいろ)で、お地蔵(じぞう)さんを歓迎(かんげい)しているようでした。

列車(れっしゃ)はまたゆっくりと走(はし)り出(だ)しました。私(わたし)はお地蔵(じぞう)さんが遠(とお)くに行(い)くまで見送(みおく)りました。やがてその姿(すがた)がケシ粒(つぶ)のように小(ちい)さくなると、青鬼(あおおに)の車掌(しゃしょう)さんが私(わたし)のそばにやって来(き)て言(い)いました。

青鬼(あおおに)「いつまで見送(みおく)っているんだい? あのお地蔵(じぞう)さん達(たち)は皆(みな)、地蔵菩薩様(じぞうぼさつさま)がお守(まも)りしてまたいつか人間社会(にんげんしゃかい)に戻(もど)って参(まい)りますよ。第一(だいいち)、何(なに)も悪(わる)いことをしてはいないからね」

私(わたし)は大(おお)きく頷(うなず)いて「そうですね」と言(い)いました。ふと青鬼(あおおに)さんの顔(かお)を見(み)ると、やはり目(め)に涙(なみだ)をいっぱい溜(た)めていました。