それから数か月が過ぎた。

その日、大東は母校の後輩の結婚披露宴に出席した。帰宅後、もらった引き出物を家人が整理した。中に、新郎新婦のイラストが入った皿があった。

「こんなお皿、本人以外が使うのかしら……」

そう言う妻の声がした。見ると、皿の中には、二人のイラストのそばに、今日の日付と新郎と新婦の名前が入っていた。二人の名前の間に+という文字があった。

あれ、どこかで見たような……大東はそれがどこで見たものかなかなか思いだせなかった。

翌日、出勤する際に、玄関の下駄箱の上に置いてある花瓶を見て、それが井上の部屋に置いてある花瓶に刻まれた+という文字であるということを思い出した。

あれは、確か+の左右に、SとIが刻まれていた。井上信之輔のイニシャルだ。鑑識も捜査本部もそう判断していた。そう、イニシャル、イニシャルなんだ。その時、そう納得した。

署について、夕刻、部下が互助会から十万円の小口融資を受けるので保証人になってくれと言うので、二つ返事で了承した。大東も若い頃、何度か借り入れ、その度に上司から保証を取り付けていたからだ。

「ここに、署名捺印をお願いいたします」

部下から形ばかりの書類を受け取って、内ポケットから取り出した万年筆で署名した。そして、そのキャップを仕舞おうとした時、『K,O』という刻印された自分のイニシャルが目に入った。親戚の叔父に大学の入学の際に祝いとしてもらったものだ。それをしげしげと眺めた。

そうだ、普通イニシャルを刻む時は名前と苗字をローマ字にして、頭の一文字を書くが、その際、間にはたいてい『,』を入れるものだ。それじゃ、『+』が入っている井上の花瓶、あれは井上のイニシャルではないのか……文字はSとIである。井上信之輔のイニシャルと同じだ……え、待てよ、もしかしたらそれは別なものの名称と偶然一致したものか……

それでは『+』は何を意味しているのだろうか。それはどんな時に用いるのか……。

それは、二つの物を合わせるという意味ではないだろうか。そういえば、先日もらった披露宴の引き出物に新郎新婦の間に『+』が入っていた。