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殺人現場

二週間後、達郎の会社では人事異動が発令された。

まず、達郎が仕えていた新聞記者上りの腑抜けの営業部長が子会社へ左遷となった。それに対して、直属の梶本営業第二課長は東京本社の営業推進部副部長に抜擢された。そして、何と、その後を追って、達郎は営業第二課長に昇進した。

その日、達郎は、社内や取引先から祝いの言葉を、浴びるように受けた。

今夜は祝杯だ、と思いながら、浮かれ気分で、玄関のロビーを出ようとした時、つかつかと厳つい二人の男が近寄ってきた。一人の男が、凄味のある重低音で、他の社員に聞かれないように、達郎の耳元で囁いた。

「石原達郎さん、井上信之輔殺人事件に関して、聞きたいことがあるので、警察署まで任意同行願います」

「ど、どうして……」

達郎は、その場に立ちすくんだ。

その日の人事発令に悲喜こもごもとしていた社員たちは、立ち止まる達郎をよけながら通り過ぎて行った。

「後で、じっくり聞かせてやるよ」

大東警部の渋い低音が達郎の全身に響いた。