◆実例集

さて、この情報収集について実際に私が経験した実例を以下にいくつか紹介したいと思います。そこから導き出される情報収集のエッセンスも各実例のサブタイトルに示してありますので参考にして頂ければと思います。

読者の皆さんも実際の仕事でいろいろ経験されているはずですから、ご自身が経験した案件を振り返りながら交渉に必要な情報収集の意味を今一度考えるきっかけにして頂ければと思います。

何を誰から聞き出すのか? ―情報源の選択と聞き出せる内容の整理―

私は20代後半商社でえさ原料の取引を担当していました。

一般の方にはそれほど実感はないかもしれませんが、日本はかなりの規模の畜産国で鶏、豚、牛の飼育農家は相当数あり、国民に消費される鶏肉、豚肉、牛肉、牛乳、乳製品、鶏卵の供給源として日本の食料自給率を維持する大事な産業です。

このような畜産農家のためにえさ(飼料)を配合、袋詰めして供給している配合飼料メーカーが、畜産業が盛んな地域にある輸入港近辺に飼料団地を形成しており、日本の畜産業を支えています。

・現物商品の買い持ち、売り越し取引の経験で習得したもの

私にとって、今でも思い出深いのは、中国での研修を終えて帰国した私が穀物部飼料原料チームという部署に配属され、その頃に担当した海外産肉骨粉の輸入販売取引でした。最初に上司から言われて多少驚いたのは、「この取引の場合、海外の原料メーカーから仕入れて同じタイミングで日本の配合飼料メーカーや問屋さんに売っていたのではトン当たり数ドルは損するよ」と言われたことでした。

その理由は、配合飼料メーカーや大手問屋の数に比べて輸入業者の数が多すぎ、過当競争の中で売るから買値よりも売値が低くなって損が出てしまうとのことでした。それでは何故わざわざ損する商売をするのかと思ったのですが、それは浅はかな考えでした。

上司曰く現物相場の上げ下げを予想して、上がると思えば先に買って上げ相場の中で配合飼料メーカーや大手問屋に売り捌き、下がると思ったら先にお客さんに売って、下げ相場の中で海外から買っていけば利益を出せるとのこと。要は相場観で勝負する商売であるとのことでした。

「はぁ~そういうもんなんだ!」と一応は納得しましたが、いざ商売を始めると全くうまくいきません。というのはお客さんたちも皆情報を収集して相場の上げ下げを予想しながら買い付けのタイミングを考え抜いていたからです。