お客さんは相場が下がると思えば買わずに待ちますし、相場が底を打って上がり始めると一斉に買いに入ってきます。下げ相場で買って下さいとお願いしても誰も相手にしてくれず、相場が反転すると直ぐ買いにきます。我々輸入業者はお客さんが買いたいときに売らなければ、競合他社にシェアを取られてしまいます。

それでお客さんが買いたそうなときに交渉はするのですが、価格が折り合わず、その隙に競合他社がそのお客さんに安めの価格で売ってしまい、それで私が上司に怒られるということを何度も経験しました。上司曰く「お客が買いに来たとき思い切って売らなくてお前どうするんだ?」と詰問されるわけです。

一方売ったら売ったでたいてい既に上昇相場に入っているわけですから、おおかたの配合飼料メーカーはそれに気づき他の商社にも一斉に買いに入るので海外の原料メーカーも気づいて値を上げてきます。翌日は売った価格よりも相場がもう5ドル~10ドル上がっているのです。2日遅れるとさらに20~30ドル上がっていることも珍しくありませんでした。そうなれば大損です。

逆に相場が上がると思って早めに買い持ちしていたにもかかわらず、思惑が外れて相場が動かず、下がり出すこともありました。これは結構悲惨です。買い契約で船積み月が決まっているので私が売れていなくても船が出てしまうのです。そうすると日本に到着する前に損を出して売りきるか、最悪の場合は日本に到着してから保管料を払って倉庫に保管しながら損切り販売をせざるを得ないということもあるわけです。

穀物相場のように先物相場があれば反対売買を先物でしておいて価格変動のリスクを回避できますが、現物相場しかないので選択肢は現物の買い持ちか売り越しのふたつしかないのです。今考えると、昔の商社はよくこのようなリスクの高い商売を20代の若造にやらせていたものだと感心してしまいます。

それでも、何度も失敗して損を出し怒られているうちに、少しずつですが利益を出す術を見つけていきました。要は人よりも先に相場の動きを的確に先読みして他社に気づかれないうちに[ひそかに]売るなら売る、[ひそかに]買うなら買えばいいのです。ただ、一足先に相場を先読みして動き出すには相場を読むための情報収集力が問われます。[図表2]の取引相関図と矢印で示した情報収集のチャンネル一覧をご覧下さい。

写真を拡大 [図表2]
※本記事は、2021年6月刊行の書籍『ビジネスパーソンのための超実践的交渉術 ⽇本⼈の交渉のやり⽅』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。