永吉は、冷蔵庫から缶ビールを取り出して蓋を開けた。プシュッという音と共に泡が噴き出し、永吉はそれを一気に喉に流し込んだ。

「もう昔のことだしさ。蓮も、色々悩んでいることがあるだろうし」

「どうして? そんなの関係ないわよ。第一、悪いのは私たちでもないし、蓮君でもなくて、あの女なのよ。絶対許さないんだから」

あおいは苛立って、野菜を切る手を止めてから永吉が持っていた缶ビールを手に、喉に流し込んだ。

「はあ、ありがと、お父さん」

永吉は、またあおいからそれを受け取り、口につけた。

「もうこの話はいいでしょ? 蓮君にはお父さんから話しておいてね」

そう言うと、あおいはまた野菜を切り始めた。蓮はこの結果を聞いてどう思うだろうかと、永吉は不安だった。永吉は、蓮と血縁関係があろうがなかろうが、どうでもよかったのだ。

それで崩れてしまう家族なら、いずれ疎遠になる程度の関係しか築けないだろう。そんなことよりも、いつか困ったことがあったら家族で助け合える、そんな関係を壊したくなかった。

このままではあおいと自分との仲にも傷が入ってしまうのではないかと、永吉は感じていた。

次の週、永吉は蓮にその事を話した。いつもの日曜日であった。

「仕方ないよ」

永吉が言った。蓮は、覚悟はできているつもりだったが、いざ事実を聞かされた瞬間に心が揺れた。

「うん」

「血が繋がっていなくても、親子に変わりはないよ。生まれた時からずっと育ててきたし、今やっと、またこうして一緒に過ごせているんだから」

「そうだよね」

蓮は永吉の言う一言一言に、心が締め付けられる思いだったそして永吉との幼少期の思い出が、走馬灯のように蘇ってきた。

思えば十年ぶりに、やっとの思いで再会を果たし、初めて蓮に父親という存在感を味わわせてくれた永吉。張り裂けそうだった蓮の心を満たしてくれた永吉との関係には、「本当の親子ではない」という残酷な結末が待ち受けていたのだった。

だが永吉の言う通りだった。血が繋がっていようがいまいが、そんな事は関係ない。家族というものは、血の繋がりを超える、心の繋がりがあるんだと、自分に言い聞かせた。

蓮はその結末を、自分自身に納得させようとしていた。そしてそこには、もう一人の自分も存在していた。