六月二十二日 金曜日

一度だけ適当に話をあわせたら、それからちょくちょく声をかけてくるようになった。

正直かなりうざったいのだが、こういう子は、へたに冷たくすると面倒くさいことになりそうで、穂波もあつかいに困っている。

「ほなみん」とかいう、頭の悪いグラビアアイドルみたいな呼び名だけでもなんとかしてもらいたかった。

「ほなみん、なんかちょっと、元気なくない?」

穂波の顔をのぞきこみながら、千紘が、少し心配そうな声で言った。穂波は、あわてて「そんなことないなりよ」と笑った。

しまった、うんざりしてる気分が態度に出ちゃったかな……。

つい調子をあわせて「ないなりよ」なんて、イタい言葉づかいをしてしまったことにまで、微妙な嫌悪感がつきまとう。

「なら、いいんだけど……。あんまり落ちこんでると、魔法少女になる契約を結ばせちゃうなりよ」

「ははは、ちょっとそれはカンベンして」

ていうか、なんなの、それ。まるっきり意味わかんないし……。

「それよりチロ、今日のそのカチューシャ、かわいいじゃん」

「ほんと!?」

頭のカチューシャに手をやって、千紘が顔をほころばせる。

「この色、すっごいきれいでしょ? マジョリカブルーっていうんだって。お店で見つけて、ひと目で気に入っちゃった」

「へえ……そうなんだ」

千紘があまりにうれしそうなので、穂波は、ちょっとだけうしろめたさを感じた。話をそらすため、テキトーに思いついたことを口にしただけなのに……。

ただ、心にもないうそを言ったわけではない。童顔でしぐさも子どもっぽいせいだろうか、千紘には、マンガの中の女の子しかしないようなカチューシャや髪飾りが、不思議なくらい違和感なく似あった。

長身で細身のせいもあり、いかにも女の子っぽいかわいい系のアイテムが、まったくといっていいほど似あわない穂波からすると、その点はうらやましくもある。

「今度はちゃんと録画しとくようにするよ」

われながら、あいかわらずいい加減なことを言ってるよね、と思いながら、穂波は自分の机に向かった。廊下側、うしろから二番目。それが、彼女の席だ。

実を言えば、穂波はこの席のことも好きではない。でも、この学校には席替えの習慣がないらしい。目が悪くなったから席を前のほうに替えてください、って、今度先生に言ってみようかな―そんなことを真剣に考えてしまう。

あれ―変だな。

机の上にバッグを置こうとしたとき、穂波は、奇妙な違和感をおぼえた。でも、すぐには、その正体がつかめない。

におい? そうだ、なんだか変なにおいがする。

でも、いったいどこから―視線を落とした穂波は「ひぃ」と声をあげ、あとずさった。

ふくらはぎが椅子にぶつかり、がたん、と大きな音をたてる。

クラスメイトの白い制服が、いっせいにこちらを向く。

「なに? どうしたの?」

千紘を先頭に、何人かの生徒が近づいてきた。

「なにかあったの? 満田さん」

ゆるくウェーヴのかかったネコっ毛をかきあげ、声をかけてきたのは武藤紗菜絵(むとうさなえ)だ。

「机の……中……」