夏休みの宿題

7月の世広台地は梅雨もあけ、真っ青な空に積雲が浮かぶようになる。日陰は比較的涼しいが、日なたはジリジリと汗ばむ日差しに見舞われる。カエルの大合唱にセミの鳴き声が仲間入りするようになると、本格的な夏の始まりだ。今日は、県総体の準決勝・決勝のため、朝7時に学校集合になっている。

「おはよう」

「おっす」

「今日も暑くなりそうやね」

由大は、マネージャーとして駅伝部に入部した泉と一緒に中学校へ向かった。

部員全員が参加した今年の県総体予選では、3年生の勝部正幸、正谷翔、松崎(えい)()、平田正夫、岡田知樹、2年生の梶川純、田中正晴、重保(しげやす)幸男が予選を通過していた。そして1年生からは奥田由大と黒木正の2人もかろうじて予選を通過していた。

住田先生とマネージャー3人を含めて14人でマイクロバスに乗り、県総体会場へ着くと、早速、スタンドの座席を確保した。

勝部、松崎、平田、梶川と由大の5人は3000m、正谷、岡田、田中、重保と正の5人は1500mでそれぞれ午前の準決勝、午後の決勝に挑むことになっている。

「今日は暑くなりそうだが、それぞれが今できるベストのパフォーマンスをすること。特に3年生は最後の県総体だから、悔いのないようにな。1年生は初めてなので、先輩たちをよく見て、今後に活かせるようにしてほしい」

「駅伝の時は一秒でも早くたすきを渡すことを考えながら走っているけど、今日は個人の記録を意識して、各自がベストの走りをしよう」

住田先生の挨拶の後、勝部先輩が掛け声を掛けて、各自準備運動に向かった。

午前の準決勝の結果、3000mでは勝部、松崎の2人、1500mでは正谷、岡田の2人が決勝に進むことになった。由大は自己ベストの更新ができず、惨敗だった。

「ヨッシー、お疲れ」

泉が話しかけてきた。

「暑かった~。途中から足が動かなくなったんよ」

「そんなヨッシーにこれどうぞ」

「何これ?」

「しそジュースよ。お母さんに聞いて作ったんよ。夏バテにも効くし、カリウムなんかもたくさん入っているので、走った後の回復にもいいみたい」

「おおっ。やった! 気が利く~」

「一応、マネージャーだからね。でも、私なんかまだまだ。藤本先輩なんかランナーがどういう時にどんなサポートをしたらいいのか、カンペキに分かっているんよ。マネージャーとして尊敬しちゃうよ」

「さすがじゃね。でも泉だっていつも周りに気を配っとるし、マネージャーに向いとると思うよ。それに、このしそジュース、めっちゃ美味しいじゃん!」

「本当? 良かった!」

泉の家は両親と泉の3人家族で、泉が3歳の時に京都から引っ越してきた。由大と泉が同じ幼稚園に行くようになり、奥田家と近所ということもあって、そこから家族ぐるみでの付き合いとなった。春には花見、夏には川遊び、秋には紅葉狩り、冬にはスキーと時間が合えば一緒に過ごしてきた。時には、奥田家の梨園で梨狩りもした。都会暮らしだった泉の両親は、当初田舎暮らしに慣れなかったが、奥田家やその他の近所との付き合いによって、打ち解け、今では世広台地での生活が気に入っていた。そして一人っ子の泉にとって由大は同じ年の兄妹みたいな仲であった。

「午後からは先輩たちの応援じゃ。秋の駅伝シーズンに備えて、他の学校には負けてほしくないな」

「ほんまや」

両親の影響もあって、泉は時々関西なまりになる。

結局、世広中学の結果は、3000mでは勝部先輩が3位、松崎先輩が8位、1500mでは正谷先輩が5位となった。駅伝シーズンに向けてまずまず幸先のいいスタートといって良かった。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『たすき』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。