箱瀬駅伝

数年ぶりの寒波に見舞われた世広台地に久しぶりの寒凪が訪れた。ピンと張りつめた静寂感の中、澄みきった空気が広がり、今朝は少しだけ暖かい日差しが降り注いでいる。

白い吐息を弾ませながら、(よし)(ひろ)は黙々と走り続けている。凍り付くような寒さを感じる山から、朝日の差し込む里を見下ろすと、霜が反射してまぶしく見える。

駅伝のまちとして有名な世広町で生まれ育った由大は、小さい頃から走ることが大好きだ。きれいな空気を吸いながら、流れゆく色とりどりの風景を見ながら走るのは最高に気持ちいい。

そして、走った後の達成感と爽快感は、また次に走りたいという気持ちにさせてくれる。由大は今までに何回か参加したことのある町の小さな駅伝大会で区間賞をとったこともあり、長距離を走ることに自信を持つようになっていた。

今日も快調に飛ばしている。

冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと胸が痛くなることがあるが、今朝はそんなことは気にならない。上り坂に差しかかってもペースが落ちない。今日は絶好調だ。家まであと1km。幼馴染の内海泉の家の前に差しかかると、こんな日は必ず泉が家の外で犬に餌をあげている。

「おはよう!」

「ファイト!」

短い声の掛け合いの後、由大は家まで一気に駆け抜けた。

家に到着した後、体から立ち昇る湯気をまといながら、家へ入っていった。

「由大、もう始まっているぞ!」

お父さんは食卓の後片づけをしながら、テレビを見て叫んだ。

「昨日の早学の大木原と青洋の吉口の走りはすごかったよね」

「おう。今日の復路は、明応の金井と東体大の高山に注目だ!」