永吉と会う事は、有花と一緒に暮らしている蓮にとって、有花に申し訳ない気持ちだった。自分が知らぬ間に、別れた夫と息子が再会している事を知ったら、二人にとって悲劇である。有花を悲しませる事は勿論、二人の関係に傷を付けてしまっては、絶対にならなかった。

蓮は有花と、これまでと変わらぬ普段通りの生活を送り続けた。蓮にとっては両方とも、大切な家族なのだから。

蓮はその時、否応でも永吉に会いたくて仕方がなかったのだ。永吉との最後の記憶は、今から十年前。そう、小学五年の夏だ。その時、どこでどのような会話をしたのか、記憶が定かではない。

その父との再会は、後に真実と嘘の愛に覚悟の決断を下す、序章に過ぎなかった。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『愛は楔に打たれ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。