蓮は二十歳を迎えた。

高校を卒業してすぐに地元企業に就職した蓮は、順調に仕事を熟(こな)していた。度が過ぎる程真面目な性格の蓮に、たまには息抜きでもしろと言わんばかりに、上司から市街地の繁華街に連れられては、頻繁に飲酒するようになっていた。父の永吉に似たせいか、アルコールは強い方だと知った。

蓮は、有花には内緒で、毎週日曜日には欠かさず、永吉に会いに行った。十年ぶりに永吉と再会してからは、二人で酒を交わしながら話をする、理想の親子になっていた。

あおいが蓮に会いに来たのは、そんないつもの日曜日の事だ。

「蓮くん、大きくなったねえ」

あおいは、蓮の手を取り、優しい笑顔で語りかけるように、話しかけた。

「はい」

いきなり手を触れてきたあおいに、蓮は頬を赤く染めた。

「蓮君、覚えてるかなあ。昔、お父さんと一緒に遊んだこと」

「え?」

「昔ね、まだ蓮君が小さいとき、お父さんと三人でゲームセンターに行ったり、食事に行ったりしたのよ」

「ああ、なんとなく」

「覚えてる? 三人でよく行ったのよ。あの時の蓮君、すっごく可愛くて。自分の子どもみたいに可愛がっていたの」

「うん、覚えています」

「お父さんが離婚する時、私たち、蓮君だけ引き取ろうっていう話もしていたのよ」

「引き取る?」

「そう。蓮君を、親権をお父さんにして、二人で育てていこうって」

蓮は、あおいから無理に目を逸らさずにはいられなかった。

「でもね。やっぱり、蓮君と省吾君を引き離すのは駄目だろうって。そうお父さんと話し合って決めたの」

ふと横に座っている永吉を見ると、幸せに満ちた表情で微笑んでいる。

その時蓮は、二人が、有花に対しての気持ちに何も触れなかった事に気づかなかった。

「そうなんですか。ありがとうございます」

永吉と不倫していた時のあおいは、まだ幼かった蓮の事を、自分の子供のように愛していた。それは、蓮が大人になった今も変わらない。

「蓮君は、何年生まれだっけ」

歳ではなく、生まれ年を聞くところが、永吉よりも若い女性らしさを感じさせた。

「平成元年です」

「じゃあ、私と十二個違いだね」

十二違いという事は、親父より十以上も歳が下なのか。また若い奥さんを見つけたものだなあと、蓮は思った。

「名前、何と呼んだらいいですか?」

「お姉ちゃんでも何でも言って! それから、敬語はなしね」

「じゃあ、あおいさんでも」

永吉があおいの事を「あおいちゃん」と呼んでいたのを急に思い出して、蓮はとっさに答えた。

あおいは白い歯を見せた。

「これからよろしくね、蓮君」

あおいは右手を差し出してきた。

握手を返しながら、蓮はまた頬を赤くした。

永吉は、二人の様子を微笑ましく眺めている。