私たちもMAFがウーロン茶や紅茶の発酵中にカテキン、特にEGCGが酸化重合したものと考えています。緑茶のなかに豊富に含まれているEGCGの分子量(モル質量)は458.372g/molですので、MAFはとても分子量が大きいことがわかります。9,000から18,000という分子量から考えると、MAFはEGCGが20個から40個も重合したものに相当します。

EGCGはエピガロカテキンと没食子酸が結合したエステルです。MAFがEGCGの重合体ならば、その構造のなかに多くの没食子酸が含まれると考えました。そこで、MAFを、没食子酸を切り出す酵素であるタンナーゼ(Tannase)で処理しました。その結果、非常に多くの没食子酸が切り出されてくることがわかりました。したがって、MAFには多くの没食子酸が含まれています。

カテキンが重合したものの代表的なものにプロシアニジンがあります。プロシアニジンはカテキンが2個から15個重合したものです。

小澤先生はMAFがプロシアニジンと同じような構造を持つのではないかと考えました。そこで、MAFを塩酸とn-ブタノールで加水分解しました。その結果、加水分解物のなかに多くのシアニジンが含まれていました。シアニジンの重合体がプロシアニジンなので、MAFはプロシアニジンと同じ構造を持つことがわかりました。

次に、MAFの化学構造を、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法で調べました。熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法の仕組みを簡単に説明しましょう。ごく少量(0.1~0.2mg)のMAFを高温で一瞬のうちに分解します。

私たちが使った条件は315℃で4秒でした。ガス化した分解物を、ガスクロマトグラフ装置にかけました。この装置は各化合物に分離するカラムと、各化合物の濃度を測定する検出器から構成されています。分離された各化合物は、次に質量分析器にかけられました。

その結果、MAFの多数の熱分解物の正確な分子量が測定できました。

次に私たちは、高分子ポリフェノールを構成する可能性が高く、化学構造が明らかになっている9種類の物質を、標準サンプルとして熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にかけました。

その結果、これら9種類の標準サンプルの質量と全く同じものが、MAFの熱分解物のなかにも見いだされました。これは、MAFの化学構造のなかには、これら9種類の標準サンプルの化学構造が存在することを示します。

写真を拡大 図6.MAFの部分構造。

MAFはカテキンが酸化重合したものです。カテキンの基本構造はA環、C環、B環の3つの環状構造から構成されています。MAFはカテキンのC環とA環の間の結合(これをプロシアニジン結合と呼びます)とB環とB環の間の結合によって、カテキンが直線上に結合したものと考えられます。

また、C環の側鎖にはOR1(Oは酸素です)のR1の部分にガロイル基(没食子酸)が結合しています。この部分にガロイル基が結合したカテキンはエピガロカテキンガレート(EGCG)です。したがって、MAFはEGCGが直線上に結合したものと考えられます。

以上の結果から、小澤先生はMAFの部分的な化学構造を推定しました(図6)。

推定されたMAFの部分的な化学構造から、MAFはEGCGが多数重合したものであること、EGCGの重合はB環とB環の間の結合、あるいはC環とA環の間の結合で形成されていること、B環とA環あるいはB環とC環の間の結合は存在しないこと、などが明らかになりました。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『誰も知らない紅茶の秘密』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。