次の日は、誰も話しかけてこず、お寺に通い始めてから、初めて心が平穏で静かな一日が終わりました。講義が終わった後、すぐ家に帰りましたが、途中の道で真之介と彼の手下が待ち伏せしていました。私は、体が硬直して動けません。「昨日はよくもやってくれたなあ」と、真之介がすごんできました。

私は「ごめんなさい! ごめんなさい!……」とひたすら謝り続けました。しかし、真之介は、何も言わずに、私を何度も何度も殴り続けました。

唇から血を流し、目の横と頬を赤黒い痣にし、泣きながら家に帰りました。

母から「どうしたの」と聞かれましたが、正直に答えられず、「転んで、木にぶつかった」とその場を取り繕おうとしました。

「本当? 昔からよく転ぶ子だったけど、本当?」

「本当だよ」

私は、唇を咬み涙を隠し、言い募りました。その時ちょうど、父が庭に出てきました。

「どうしたんだ? 彦太郎」

「転んで、木にぶつかったそうよ」と母。

「そんなことでできる傷ではない。正直に言え、彦太郎」と普段は優しい父に厳しく問い詰められたものですから、

「田島真之介らと戦ごっこをしてやられたんだ」と少し嘘を交え答えました。

「そうか、田島さんの息子と戦ごっこか、それじゃ仕方がないな。もっと強くならないとな」と言った後、気まずい顔をしながら父はすぐにどこかに行ってしまいました。

私は、遣り切れない気持ちで家を出て、フラフラしていると、ひろちゃんに偶然会いました。

「彦ちゃん、どうしたん。顔が赤紫色してるよ。血も出ているよ」

「うるさい!」

「そうだ、良い物がある」と近くの木の葉を千切ってきて、私の頬にあててくれました。私は、その優しい行為に泣いてしまいました。

「どうしたん、どうしたん、痛いの? ごめんね、ごめんね」

この時がある意味、弱い人間に対する世間の厳しさとこのままでは大事な人を守ることもできないと気づいた瞬間でした。強くなるんだ、偉くなるんだ、と心に誓いました。また、この頃の出来事が、私の性格に強く影響を与えたと思います。疑い深く狡猾で人の顔色を窺いながら生きるという性格です。

それからの私は、なるべく人との関わりを避けるように生きることにしました。勉学は、坊主の話を聞いていれば、自然に覚えてしまうため、苦労はしませんでした。しかし、体の鍛練はかなりきつかったです。元々、根性もなく運動神経も悪かったので。毎日、毎日、真之介を敵と想定し、一人で剣術の修行を続けました。

その後も、田島真之介たちとは、付かず離れずに付き合っていました。さすがに戦ごっこは、もうやめました。私は、いつも一人で誰ともしゃべらず過ごしていました。