なぜなら、就職活動をする大学四年生といえば、22年くらいしか生きていない。社会の本当の厳しさや業界の内幕などわかるはずがない。それにもかかわらず、30年以上の途方もなく長い人生の選択を迫られるのだ。

入社してみたら予想していたのとは違っていたということは、当然あるはずだ。ましてや高校を卒業して就職する場合は、まだ未成年だから大学生よりさらに人生経験が少ない状態で選択をしなければならない。

私がいまの会社に入って最初のショックは、入社して三ヵ月程経った頃に自分の配属された部の部長がいきなり替わったのだが、その交代の理由だった。それは単に親会社から若い方が新部長として出向して来るからであった。先輩に聞くとよくあることだそうで、別に悲しみも悔しさも感じていないようだった。

いまはネットで検索すればこうした内幕も入社前にわかることもあるが、当時はネットもなく純粋に会社案内に書かれた聞こえのよいことだけを鵜呑みにして入社した私は、いきなりやる気をくじかれたのを記憶している。

もしこの情報を事前に知っていたら、いまの会社は選ばなかったと思うが、「終身雇用制度」のもとだと、22歳くらいで選んだ道を進まざるを得ないのだから、不条理さのある制度と言わざるを得ない。

なお、不動産の売買などでは、たとえば賃貸物件で以前に自殺があった場合など、売り手にとっては都合の悪いこともあらかじめ借り手に告知することが事実上の義務と認識されているが、これと同様に会社案内でもルックスの良い先輩職員の写真と華々しい活躍といったよい面だけを紹介するのでなく、都合の悪いこともあわせて告知すべきではないだろうか(たとえば、入社一年以内の退社率、親会社からの出向者人数とその年齢、学閥の有無の確認のために役職者の出身大学名など)。

そんなに嫌なら辞めればいい、と言う方もいるだろうが、見直すほうがふさわしいのではないかと考えている。