終身雇用制度をめぐる誤解と問題点

人生でチャンスが一度だけだと、就職活動の年の景気の具合により、求人数に大きな格差が出てしまい、きわめて不公平かつ不条理だ。

たとえば、私の大学時代の二年前の先輩はバブル景気のおかげで複数の内定をもらうのがごく普通で、それどころか「拘束旅行」といういまでは想像すらできない現象さえあった。

これは内定を出した学生がほかの企業の面接に行くのを防ぐため、会社の保養所や海外を含む観光地などに連れ出し、接待に近いことをするものだった。

ところが、私の卒業の年には景気が悪くなり、逆に内定がもらえない人が出るまでに激変した。いま振り返ると、後に「就職氷河期」という言葉で言われる時代の始まりであり、優秀な人であってもたまたま「就職氷河期」にあたったがために就職できないケースも多く、本人にとっても日本の国にとっても不幸で大きな損失をもたらす結果となり、その悪影響がいまでも尾を引き、平成の日本が停滞する大きな要因となった。

いまの日本社会で指導者的立場にある50代の人たちは、自身が「拘束旅行」などの恵まれた就職活動を経て来たせいか、いまになって付け焼刃のように「就職氷河期」対策などが言われるようにはなってきたが、その根源となった「終身雇用制度」と結び付け、今後の雇用体制のあり方を真剣に考えているように見受けられないのはきわめて残念である。

それに、就職氷河期対策などと就職氷河期をとうに過ぎたいま頃になって言われても、就職氷河期世代は人生で大事な20代から30代をすでに不本意な形で過ごしてしまった方も多い。

いま単に人手不足になったから、就職氷河期対策などと聞こえのいい言葉を使って人手を集めているだけに過ぎないことは、多くの人が薄々気づいているのではないだろうか。

そうした意味で、名目上は「技能実習」とはいうものの、実態は日本人が嫌がる仕事の代替労働力として外国人をやむなく受け入れ始めたのと構図としては同じではないだろうか。
 

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『日本が没落した3つの理由――そして復活への道』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。