とべたよ

ハスの花がだんだん元気を失ってゆきました。心配するカエルの王子様にハスの花が言いました。

「わたしはもうすぐ眠りにつきます。もうあえなくなるでしょう。お願いです。わたしが眠りについた後、きっとヤマバトがやってきます。ヤマバトは私が結ぶ実が大好物なのです。

きのう様子を見に来たヤマバトにあなたのことをお願いしておきました。ヤマバトがきたら、どうぞ、怖がらないで、ヤマバトの背中にしっかり掴まってください。

ヤマバトはきっと、あなたのゆきたい場所に連れて行ってくれるはずです」

夏が終わらないうちにハスの花は枯れてしまいました。

王子様は大変さびしく思い、池のふちにきては水の中をのぞきこみましたが、もうあの美しい姿はどこにもありませんでした。

やがて花のあった場所にハスは、ヤマバトの好きな実を結びました。早速待ち構えていた大きな体をしたヤマバトがやってきて夢中でその実を食べ始めました。

王子様もそのときを待ち構えていました。ヤマバトのそばにそっと忍び寄りました。そしてひょいとその背中に飛び乗りました。ヤマバトはまるで気がついていないようにみえます。

おいしい実に夢中なのです。ヤマバトの背中に乗ったのは王子様だけではありませんでした。カタツムリも王子様のかたわらでヤマバトの羽根にしっかりしがみついています。

いつかのハスの花と王子様の話をカタツムリは木陰で聞いていたのです。それでカタツムリは自分もそこへ行きたいと願いました。

「わたしをどうか新しい世界へ連れて行ってください」

王子様にそうお願いしました。王子様と一緒なら何も怖くないと思いました。それで王子様はカタツムリも一緒に行くことをゆるしたのです。

ヤマバトはおなかがいっぱいになるとたいそう幸せな気持ちで自分の住む山に帰るために、大きな翼をひとふりしました。ヤマバトの家のあるその山こそ、物知りの風が話していた朝焼山だったのです。

池のメダカたちはヤマバトの大きな影に驚いて水の中に隠れてしまいました。

カエルの王様とお后様もやはりヤマバトの大きな羽音にすっかり驚いて宮殿の奥深くに震えながら身を隠しました。

ですから、王子様はだれにもお別れを告げることができませんでした。ただ舞い上がるヤマバトの背中から大きな声で