「さようなら、みんな王様、お后様、お元気で」

と、叫んだだけでした。

夕暮れが近づいていました。ヤマバトは帰りを急いでいました。にぎやかな町の上をぐんぐん飛んでゆきます。

見下ろすと目が回りそうだったので王子様もカタツムリもただひたすら目をつぶり風の力に負けないようしがみついていました。でも、王子様は幸せでした。

やっと念願の旅に出ることができたからです。たとえ着いたところがどんなところであっても元気で生きてゆこうと心に決めていました。

大谷夫人の庭よりずっと広い場所で楽しいことをたくさん見つけてゆこうと決めていました。

「前へ、前へ進むのよ」

お后様の声が心の中で繰り返しきこえました。カタツムリも王子様と一緒なので幸せでした。

何が待っているかわかりませんでしたが、王子様と一緒ならきっと楽しく暮らせる、と信じていました。

ヤマバトも幸福でした。これまで食べたどのハスの実より今日食べたハスの実がおいしかったことを繰り返し思い出していました。仲間に自慢できます。

王子様はアゲハチョウのことを思い出していました。そして心の中でそっと語りかけました。

「ほら、見てご覧。アゲハ。ぼくたち、とんでいるよ。今、君のように空をとんでいるよ」

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『思い出は光る星のように……』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。