王子様は遠くをみつめながら言いました。

「ぼくはむだには死にたくない。ぼくはぼくとぼくの未来の子どもたちが安心して住める世界を何とかみつけたい。それでどうしたらそんな場所をみつけることができるかずっと考えているんだ」

王子様は真剣なまなざしでハスの花にたずねました。

「君は何か知っているかい?」

ハスの花はもちろん何も知りませんでした。ただ、毎日世界を旅している物知りの風が大谷夫人の庭にまもなくやってくることをきいて知っていました。それでその風にきいてみるように王子様に勧めました。

あちこちの葉っぱがゆらゆらゆれて、その風がやっと大谷夫人の庭にやってきました。

カエルの王子様は吹き飛ばされないようにカヤツリグサの根元にしっかり掴まりながら大声で風にききました。

「ぼくは王様やお后様の夢をこわしたくないんだ。ぼくやぼくの未来の子どもたちが幸せに暮らせる場所をどこかご存知ですか? ぜひ、教えてください」

物知りの風は知っていました。すぐにこう答えてくれました。

「朝焼山のふもとに大きな湖がある。山が噴火して川をせきとめできた新しい湖だ。そこにちょっとした島がある。

そこなら君たちはきっと幸せに暮らせるにちがいないよ。子どものオタマジャクシが自由に泳ぎ回れる場所も餌となる虫たちもたくさんいる。

蛇やモグラはまだ住み着いていない。車も犬も猫も人間もいない。今のところはね。しかしね、問題なのは…」

風は難しい顔をして言いました。

「そこはとても遠いんだ。君の足ではとてもむりだ。それに途中の道は走り回る車や猫やいたずら好きの子どもたちがいるし。数え切れないぐらいの危険でいっぱいなんだ」

風はすぐに次の場所にゆかなければならないようでした。仲間の風がしきりに口笛をふいて呼んでいました。

「もう、わたしはゆくよ」

風はイチジクの大きな葉にあわててなにかを書き込むと去ってゆきました。ひらひらと舞い落ちた葉に書かれてあったのは朝焼山への地図でした。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『思い出は光る星のように……』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。