宗像は感心しながら女史の説明に耳を傾けた。

「後ほどお話しいたしますが、それで、この絵を描いた画家には、多少ともフレスコ画の素養もあったのではないかと想定されるのです。

さて、それでは、これからが本題です。A・ハウエルという画家はいったいどのような人物なのかです。名前は偽名の可能性もありますし、偽名とは言わないまでも、ペンネームのような使われ方もあるかもしれません。

それに、男性か女性かも分かりません。宗像さんに、四枚の絵のデジタル写真を撮っていただき、お送りいただきました。これがその四枚の絵ですね」

そう言いながらモーニントン女史は、先日と同様、背表紙にピエトロ・フェラーラと印字された青いファイルを開いてA5サイズのフォト・プリント紙を取り出した。

「よく観察させていただき、これらの絵はかなり腕の良い画家によって描かれたものと判断いたしました。それにこの画家は高い教育も受けていたようです。歴史的な美術様式の使い方など、素養のある知的な表現が随所に見られるからです。

さて、ハウエル姓についてですが、この名前は一般的にケルト語のHywelの英語系と考えられているようです。英国を中心にして、英国系移民国の米国、豪州などや、英国と関係の深いポルトガル、それにスペインでも見られます。

勿論、この名前に限りませんが、姓名というものは今では多くの国に、いろいろな形で混ざり始めていますから、なおさら断定は難しくなっています。

でも、この傾向に注意を払って可能性のありそうな国を絞り込んだのです。まずポルトガルで発見された絵ですから、第一にポルトガル人であることが予想されます。

次に、歴史的、経済的、文化的にポルトガルと密接な関係がある英国を加えました。そして、ポルトガルの隣国のスペインです。Howell姓は米国を中心とした英国民の移民国にも多く見られますが、とりあえず今回は欧州に限定しました。この三国の可能性が一番高いと考えたのです。

また、ラファエル前派風、ピエトロ・フェラーラ風ということから、英国とイタリアは外せません。それに文化立国を自認するフランスを加え、合計五カ国で調査を始めたのです」

「五カ国でも大変ですね」

モーニントン女史の鮮やかな整理に感心しながら、宗像は言った。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『緋色を背景にする女の肖像』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。