「あ、同じ高校なんだ」なんだか納得した様子で大きく頷く。

「春田恵美って言います。沢波くんと同じ農学部の資源生物科です」

「へー、じゃあ一緒にサークルに入ったんですね。付き合ってるんですか?」

特に何を意図したわけでもなさそうなんだけどさらりと言う。(え?)と僕も口に出しそうになったが、春田はそれより先に赤くなりながら「たまたま一緒になったんです!」と首も右手もブンブン振って慌てて否定した。

そりゃたまたまだし付き合ってはいないけど、そこまで強固に否定しなくても……ちょっと寂しい。しかし──木下和はかなり天然なようだ。

「そうなんですか」と逆に驚いたように目をぱちくりさせた。

春田はこの店を前から知っていたようで、メニューを見るのもそこそこにシーフードグラタンを注文した。僕は木下と同じ店主お勧めのキノコとベーコンのクリームスープパスタをチョイスする。

「高校は同じクラスだったんですか?」

木下に話されると何を言われるかわからないと思ったのか、春田が先に口を開いた。

「たしか高一だっけ? 同じでした。うちら中学高校の一貫校なんで、ほんとは中学からだけど、同じクラスはその一年間だけだと思う」

へぇー……とつい感心してしまう。僕なんか、仲の良い男子ならまだしも、あまり話したことのない女子はほとんど覚えていない。なにしろ一学年三百人以上いたからしようがない。

「それに家が近いんよね。沢波くん久万川の北でしょ? 私の家、南やから。川を渡ったらすぐやけど、小学校の校区が違うんよね」

「え、そうなん?」

全然知らなかった。そんな近くにいたなんて。女の子はそんなことも気にするのだろうか。またおそらく彼女は朝も余裕を持って登校していたんだろう。

僕はいつもぎりぎりで、おまけに毎日夕方暗くなるまで部活をしていたから、ほとんど会うことがなかったのだ。ローカルな話題にもちろん春田はついて行くことができず、木下と僕の顔を交互に見ていた。

「木下さんこそ沢波くんと仲が良さそうなんだけど……」

「高校で一度同じクラスなだけですよ」

恐る恐るという感じで尋ねる春田に、答えになっているのかわからない返事をさも当たり前のようにした。ま、それ以上でもそれ以下でもないということか。それにしても今日の春田はいつもより顔つきが厳しくない。気のせいか?

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。