ある時、早朝鎌原に出発した盛江が、昼過ぎに帰ってきた。彼はパンパンに膨れ上がった麻袋を背負っていた。林が出迎えてねぎらった。

「ごくろうさま。ウズメさんにいっぱい分けてもらったの?」

「違うよ」

盛江は袋を地に下ろした。ドスッと重たい音がした。

「今日はいつもと同じ額でたくさん買えたんだ。モノが安くなったんだよ」

「ちょうど収穫の時期だったの?」

「いや。そうではないと思うが……」

林と盛江が首を傾げていると、岸谷と砂川も帰ってきた。彼らはそれぞれ別々の集落に中学生男子を連れて買い物に出掛けていたが、二人も盛江同様「いっぱい買えた」「安く買えた」と言った。

砂川は興味深いことを言った。

「俺は大前おおまえ集落ってところに行ったんだけど、そこの人が『南にちょっと行くと、とある集落があって、そこの野菜はモノがいい』と教えてくれたんだ。初めて聞く集落だ。貨幣の勉強会にも来ていない。ちょうど時間があったんで行ってみたんだ。そしたらなんと、そこで貨幣が使えたんだよ」

「えっ? 本当?」

林は驚いた。そばで聞いていた岩崎が、

「皮肉なことだが、例の強盗どもが奪った貨幣をあちこちで使ったんだと思う。それで俺らの知らない集落にも貨幣が流通するようになった。市場が生まれて価格競争が起こった。それで物が安くなったんじゃないかな」

「こんなに短い間で?」

「あくまで想像だ」

岩崎はニンマリした。

「でもこういうのって、初めはゆっくりだが、ある時点から爆発的に拡がるものだよ。噂話のスピードみたいに」

大学生たちは納得した。よく分からないが、貨幣が広まるのは悪いことではない。現に物は安くたくさん買えたし、貨幣が満遍なく流通しているのである。

ただ、「強盗を正当化したくはないな」林はぽつりと言った。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『異世界縄文タイムトラベル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。