サンタからの紹介だった。浪人生になった先輩たちは、みんなサンタにこの研究所を紹介してもらったのに、なぜかサンタの力に頼る人は誰もいなかった。

アトリエに入ったときに、まず、この中で友達になれる者はいないな、と思った。

また、ぼくの方からもなるべく彼らと関わるのはよそうと思った。

この一年、歯を食いしばっても、頑張って合格しなければならない。甘いことを言う親父も、二浪は許してくれないだろう。研究所の浪人生の中には、美術部員のように、はじけた、バカをさらけ出したような個性を持った者はいないようだ。

みんな無口で、スケッチブックやカンバスに向かっている。ぼくはその中に身を置いた。そして、なるべく周りを見ないようにした。彼らと自分の差を知って、下手に自分を自己嫌悪に陥らせたくない。

予備校の帰りには、高校の美術部の部室に、何らかの口実を見つけて立ち寄った。部室は体育館の屋根裏のようなところにある。割合と広く、美術部員は一人ひとりがテリトリーを持ち、好き勝手に使っている。

こんなに広いアトリエを持たせてくれるのは、コウちゃんの力のおかげだろう。ここ数年、部員の誰かが、総文祭に出品していい成績を残している。

一人二畳ほどのテリトリーには、カラーボックスがいくつか積み重ねられている。絵の具などの画材や、彫塑ののみや荒縄、乾いた粘土、小さな轆轤ろくろ、駄菓子の袋など、雑多なものが一見だらしなく見えるが、高校生が思い思いの小さな世界を作っているのだ。

いつのことだったか、遥か昔の先輩が隠していたフルーツポンチの缶詰を、村瀬が棚の奥から見つけ出してきたことがある。

錆びて、ラベルさえ判然としないそれを奪い合った。鑿を使って無理矢理こじあけ、手づかみで中身を奪い合ったものだ。

もちろん部室には缶詰だけでなく、奥には美術部の先輩たちが置いていった、いや打ち捨てていった、うんと背伸びをしたような抽象的な油絵や、何やら得体の知れないオブジェ、パステルカラーの伸び伸びとしたイラスト、セルに描かれたアニメのキャラクター、『ガロ』にでも載っていそうな漫画の原稿やらが蓄積されている。

時折ぼくはその山を漁り、先輩たちの作品に見入って楽しんだ。ぼくもこの三月までは、ここに自分の小宇宙を持っていた。そこは部室のいちばん奥の棚に隠れていて、ぼくはここに他の部員を侵入させないよう、自分の身の回りを整理していた。

絵の具も筆も、誰にも触れられないように並べて、自分の身の回りだけは塵ひとつないよう、いつも雑巾がけをしていた。

美術展の前に、授業をサボって油絵を描いていたことがある。泊まり込み、徹夜をして、毛布にくるまり寝てしまったこともある。そのときは体育教師に見つかり、半日近くこっぴどく説教された。

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。