弱虫ふうせん

ぼくは〝弱虫ふうせん〟を持っている。それもたくさん!

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〝弱虫ふうせん〟って何だかわかる? ふくらまないんだ! フーッて力を込めて吹いてもふくらまない。

ふくらますことができない! 今まで1つも。だから、ぼくが〝弱虫ふうせん〟って名前を付けたんだ。

〝弱虫ふうせん〟は、ポケットにもバッグにも机にもベッドにも溢れている。

そんな〝弱虫ふうせん〟を見る度に、ぼくは、ぼくのことも〝弱虫〟って思うんだ。友達は、ふくらんだ大きなふうせんを投げ合って楽しそうに遊んでいる。

ぼくも一緒に遊びたくて、ポケットの中の〝弱虫ふうせん〟を一つ取ってふくらませようとする。フーフーッて! 早く友達と一緒に遊びたいから力いっぱいにフーフーッて! でも、ふくらますことができなかった。

ぼくは恥ずかしくて〝弱虫ふうせん〟をポケットにそっと隠して家に帰った。〝弱虫ふうせん〟でいっぱいの家にね……。ある日、小さな子が泣いていた。

「どうして泣いているの?」

よく見ると高い木の枝に赤いふうせんがひっかかっていた。小さな子は、ふうせんのひもを離してしまったんだ!

ママに買ってもらったフワフワ浮かぶ赤いふうせんが手の届かないところにいってしまったから、悲しくて泣いているんだね。

「わかったよ! 待ってて!」

ぼくは家に走って行き、〝弱虫ふうせん〟の赤色を見つけギュッと握ると、泣いている小さな子のところへ戻った。

「エーン! エーン!」

小さな子は枝にひっかかったままのふうせんを指さして、大声で泣いていた。

「もう大丈夫だよ! ほら! 赤いふうせん!!」

小さな子はキョトンとしてぼくを見た。そしてまた「ワァーン!」と悲しそうに泣く。

「あ!! ごめん、ごめん! ふくらんでないもんね。待っててよ、待っててよ……」

ぼくは、ふくらますことができるのか……不安だったけれど、泣いている小さな子を見るとやるしかなかった! 思いきって、フーッ! と。一心に夢中になって〝弱虫ふうせん〟に息を吹き込んだ。

「あ! ふくらんだ!! ほらほら!」

フー、フー、さらに夢中でふくらませ、しぼまないようにしっかりギュッと結んだ!

〝弱虫ふうせん〟は大きく大きくふくらんでいた。

「はい! これあげるから、もう泣かなくてもいいよ!」