血の糸

勝手口の戸が開いていたので、犯人はここから逃亡したとみて、足跡などをつぶさに調べることにした。若山義男は、箪笥の引き出しに入れておいた現金6万円と、冷蔵庫内のビールやハム等がなくなっている、と言っていた。

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しかし、沖田刑事の関心事は別のところにあった。殺された洋子の口の中に、彼女が身につけていたものと思われるパンティーが捻じ込まれていたことであった。

この猟奇的な事件を見て、沖田刑事は、二十数年前の事件と犯人を思い出した。あの事件の犯人は、早川岩雄だった。早川岩雄──この男は、窃盗、殺人犯として手配中である。いまだに逮捕されていない。いや、逮捕できない、と言ったほうが適切か。

と、言うのは、この男が生きているのかどうかさえ判明しないからである。男は、昭和5年6月2日、岐阜県美濃加茂郡坂祝町に生まれた。