そんな夢から覚めたのは、今朝カンバスを梱包する直前だった。描き足りなかったところ、不満足なところが、いくつもいくつも浮き出るように発見された。まだ絵の具の乾かないぼくの作品は、みるみるうちに色褪せていくような気がした。

「おい、これ、まだ乾いてないじゃないか」

村瀬が文句を言う。

「また、付け焼き刃かよ」

東京の私立の美大に受かった村瀬の言葉は、グサリと胸に突き刺さった。

「ほー、笛吹川だね。なかなかの力作だ」

髭をサンタのように生やした郷島さんが褒めてくれた。郷島さんはぼくたちの美術部のOBだ。市内の広告会社で、デザイナーやイラストレーターをしている。

「雪の笛吹か」

ぼくはプロのサンタに評価してもらってうれしかった。サンタはパイプをくわえ、ぼくの絵をじっと見つめている。次に何を言ってくれるのか、ぼくはどきどきしていた。

「自分のモンだけ解いたからって、お終いじゃないよ」

朱美の声に振り向くと、声を掛けられたのはぼくではなく、一年の男子だった。そのとき「おー」と歓声が上がった。園田のカンバスの前にみんなが集まっていた。

そこに、朱美を描いた園田の絵があった。カンバスの中の朱美は、縁側でガラス戸に寄りかかって本を読んでいる。園田の好きな、ピカソの青の時代のような暗いブルーの背景に、ピンクのワンピースが鮮やかに映えていた。髪を軽く右手で上げ、目は何ごとにも揺るがないように凛としていた。

ぼくは園田に嫉妬を覚えた。

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。