「アスファルト?」

「貨幣は、このアスファルトと交換する」

「それはすごい! みんな欲しがるよ」ユヒトの目が輝いた。

「でもこの形のままでは分かってもらえないかもしれないな」

「分からなきゃ分からないでいい。とにかく、笹見平にはそれが無尽蔵にあると伝えてくれ」

ユヒトは質問者に顔を戻し、縄文の言葉で話しはじめた。途中、人々の間に、ぞわぞわとどよめきが起きた。

どうやらアスファルトが利いたらしい。ユヒトが何かを呼び掛けて挙手を促すと、みなが挙手した。

ユヒトは林と岩崎を振り返って言った。

「全集落、代表者を出してくれるそうだ」

二十の集落の代表者は三日に一回程度のペースで笹見平にやってきた。彼らは印刷の手伝いをしつつ、貨幣について学んでいった。印刷の手伝いと言っても、プリンタに触れることはない。刷り出された紙幣を切ったり束ねたりする作業を行う。

「貴重なプリンタに触れられて、壊されでもしたらおしまいだからな」

岸谷はそう言って刷りたての紙幣を一枚手にした。自分のデザインした紙幣にまんざらでもない様子だった。代表者らには毎回貨幣について座学が行われた。講師は岩崎、通訳はユヒト。妙なことに、盛江が手伝い役を、誰も頼みもしないのに買って出た。その魂胆は明らかだった。鎌原村からやってくるあのオウム返しの女性である。