先日、花帆と久しぶりに自由が丘でお茶をしてから、急に昔、花帆との出会いのきっかけを古いノートのページをめくるように思い出していた。中学の時は5クラスあったが、美代子はベツレヘムで花帆とはクラスが違っていた。彼女はナザレトだった。

このキリスト系の学校はクラス名にキリストの聖地の名前を付けていた。他にもエルサレム、パレスチナ、そしてヘブロンと、教室の入り口には名前が掲げられていてクラスに入る時からなんとなく神妙な気持ちになった。

花帆はクラブ活動は器楽部でフルートをやっていたが後で聞いたところ、楽器にはなじめなかったと言っていた。音楽の才能がなかったと早くから悟っていたようだ。だから中学の三年間はお互いニアミスで接点があまりなかった。

高等部に進級した時、初めて花帆とクラスが一緒になって、中学の時にバスケをやったから今度は社会に出てからも何か役に立つものがいいと考えていたので、美術のサークルに入った。そこで初めて同じクラスの花帆と身近に出会った。

自己紹介で皆が自分の名前と趣味など手短に紹介した時、花帆は「原口花帆、奥沢から来ています。中等部の時は器楽部でフルートをやっていましたが、音楽の才能がないことに目覚めて今度は美術の世界を勉強してみたくて入部しました。よろしく」と笑顔で自己紹介した。周囲の皆にも好印象を与えた。

美代子は、その時のはきはきした話しぶりとにこやかな笑顔にじっと見とれていて自分が引き込まれていく心臓の鼓動を覚えた。それがきっかけでクラスでも、サークルでもいつも一緒に行動をするようになった。