第2作『人形』

朝、登校したとき、昇降口で英二が待っていた。「昼休みに、屋上に来い」とすごんだようにつぶやき、英二はぼくの顔を見ないで行ってしまった。

今どき屋上だなんて、ぼくは思わず笑ってしまった。太郎と同じじゃないか。きっと鴇子は、英二に相談したのだろう。

最近の英二の態度を見ればそれが分かる。男っぽくて、いつもいばっている鴇子が、どんな顔をして英二にしゃべってしまったのか、可笑しくなる。

そうだとすると、当然太郎のことを打ち明けねばならない。そのとき鴇子は太郎に対する嫌悪感を隠すだろう。しかし英二はすぐにそのことを察するに違いない。

ではどうしてぼくに文句を言おうとしているのか。不良っぽく見せながら、かっこつけた侠気(きょうき)を見せるのか。正義の味方ぶって説教するのだろうか。昼休みが楽しみになった。

図書館横の狭い階段を上り、重い扉を押すと眩しい世界があった。配線設備のある屋上の小屋の向こうから煙が上がっているのが分かった。これが彼の抜けているところだ。

ぼくにも一度喫煙の経験があった。父のチェリーを吸ってみたのだ。おそるおそる、煙を口に含み、吸い込んだとき咳が止まらなくなり、呼吸困難になってのたうち回った。それ以来いくら友達が勧めても、決して吸ったことはない。

「よう」
「ああ」

英二は顔も見ずに答えた。

「何か用か」

英二はしばらく間を置き、ショートピースを深く吸うと「お前、最近、ナマイキだ」とすごんで見せた。ベタなセリフだ。ぼくは笑いを呑み込んだ。

だいたいナマイキとは何だ。そんなこと言われる筋合いはない。

「べつに」
「お前、最近、おれたちを無視してるよな」
「そんなことないさ」
「話しかけても、答えない」