裏手にまわって、石炭に火をつけようとしたが、なかなかうまくいかない。炕(オンドル)に火が入るまでには、かなりの時間を要した。

「あなたが、あたらしい付き人?」

丸顔の女官が、大きな目で、にらんだ。

「しっかりしてよ。やっと、宮を切り盛りする人が来たと思ったら、ちっとも役に立たないなんて、かんべんしてほしいわ」
「牛順廉(ニウシュンリエン)に、たのめばよかったではないか?」
「ああ、あの人? ま、火を入れるくらいなら問題ないけど、基本的にあの人は人数にはいってないから。ね」

背の高い女官と、目をあわせた。このふたり、丸顔のほうは張金蓮(チャンジンリエン)、背の高いほうは蘇川薬(スーチュアンヤオ)という名だそうだ。

「それは、いったい……どういうことだ?」
「あの人、万歳爺(ワンスイイエ)の前には、出られないのよ。ゆうべ、いらっしゃったとき、彼、宦官部屋に下がったんでしょう?」
「あ、ああ」
「あの人は、雑用係なのよ。雑用以外はしちゃいけないの。万歳爺(ワンスイイエ)だけじゃないわ。皇太后さまや、皇后さまの前には、出られないの」
「きのう皇上がいらっしゃるまえに、ここの帳簿をわたされたが……おれは計算ができないからって」
「計算ができないんじゃないのよ。計算はできるの。あの人、小商いをいろいろやってるから、けっこう計算高いはずよ。でも、禁じられてるの。なんでも、さわりがあるんですって。あの人、先代(正徳帝)からのお仕えらしいんだけど、あの人の師父が、仲間と組んで、謀反をたくらんだんですって」
「むほん!」