それは、招かれもしないのに、昔別れた妻との間に生まれた娘の結婚式の披露宴に出かけていった父親の巻き起こす騒動を扱ったコメディーだった。今思い起こすと出来の悪いドタバタ劇に過ぎなかったが、当時の風間は、初めて見る小劇場の雰囲気にすっかり酔ってしまった。

「芝居ってすごいね」

そういった風間に小林は呆れた顔をした。

「今日のは最悪だと思ったんだがなあ、実はとんでもないのに連れてきて何を言われるかとどきどきしてたんだ。喜んでくれてうれしいけど」
「夢を見ることってあるだろう。芝居ってさあ、夢を伝えることが出来るんだね」

小林は変な顔をしただけだった。急にしゃべりだした風間にびっくりしたのかもしれないし、夢と言う言葉の意味を将来への希望と言う意味に取り違えたのかもしれない。風間は本当はこういいたかったのだ。

「夜見る夢って個人的なものだよね。いくら他人に話しても決して伝わらないと思っていた。言葉にすればするほど、夢の雰囲気は失われるんだ。僕はいつでも夢の世界に住んでいる人間だから、それがひどく歯がゆかった。でも、芝居って夜見る夢を伝えることが出来るんだね」

風間は、もちろんそれをうまくいえたわけではない。だが、急に演劇部に入ると言い出した暗そうな少年に、仲間たちはびっくりした。それを期に、風間はゆっくりと性格を変えていった。大学に入る頃には、快活といってもよいほどだった。

「人間変われば変わるものだなあ」

小林は呆れていた。

「君が僕よりおしゃべりになるとは思わなかったよ」

小林は、自分の誘った芝居が友達を変えたのだと気がついていなかった。