何者かによって貴重な山田錦の田んぼに除草剤が撒かれ、500万円の身代金を要求する脅迫電話がかかってきた事件。蔵元内には調査本部が設置され、調査が進められていた……。

この蔵の事情も、なかなか複雑そうだ。

「それは、たぶん義理の父です。怪しい者ではありません」
義理の父というと、最近、秀造と仲が険悪だという当人だ。

「お義父さまですか? 道理で! 勝手知ったる家で、何してるんやって顔してました」
秀造は困惑した風、苦笑いが深くなった。

「義父は、近くのホテルに帰りました。明日、また来るそうです」
「こちらには、泊まられない?」
「いろいろ、ありまして」
「桜井会長やワカタさんは、泊まってるのに?」
「そうなりますな」

この蔵の事情も、なかなか複雑そうだ。

夜も、かなり更けてきている。勝木たちも、一旦引き上げることにし、その旨を伝えて、酒蔵を辞去した。
蔵前の広場は、静まり返っていた。車両が減って、広々として見える。