「じゃが、わしに万一のことがあったら、その猫ちゃんがかわいそうだろ」
「心配しないで。その時は私が責任とるから」

気持ちが動いた瞬間じゃったろう。おじいさんのどんよりしとった瞳が、パッと明るく見えたそうな。

ところが現実はきびしい。動物愛護管理センターに行って聞いてみると、65歳以上の人は猫の里親になることはできんそうだ。

里親さんが先に死んだら、猫ちゃんが取り残されるからのう。それで、ここだけの話じゃが、孫が飼うことにして、猫を引き出す手はずをととのえたんじゃ。

おじいさんは、猫がやって来る日を、それはそれは、楽しみにしとったらしい。どんなかわいい猫が来てくれるのかと、空想がふくらんだ。

そして、やっと、その日は来たのじゃが、あいにくの空じゃった。黒い雲にずっしりとおおわれてのう、今にも雨が降りそうな気配。天気がこの先を案じていたのかもしれん。

「おじいちゃん、猫ちゃんを連れてきましたよ」
「おーっ」

急いで玄関にかけつけたおじいさんは、ケージごしの猫を見てびっくり。なにしろ、まるまると太って重そうな三毛猫じゃった。

おまけに片ほうの目のまわりがパンダになっとる。顔の大部分は白い毛が占めているんじゃが、おでこから右目のところが黒い毛で、口と鼻のまわりが茶色なんじゃ。

それにしっぽの先っぽが、カクンと折れ曲がっとる。あまりにも見た目がおかしかったから、「プッ」とおじいさんは、ふき出したんじゃ。