Chapter7 失脚

夜はとっぷり暮れていた。笹見平の若者たちは、みな竪穴式住居に入りそれぞれ床をとっていた。

このところ夜中になると冷たい風が吹く。男子の竪穴式住居では締りの悪い戸口の隙間が、ひょう、ひょうと、不気味な音を立てた。

「おおい、林」

奥に床をとっている盛江は毛布を首まで巻き付けて声を出した。返事は無い。

いつもなら戸口に近いところに寝る林が、隙間に枯れ枝を詰めて隙間から音が出ないようにする。だがその晩は音が鳴りっぱなしだ。

盛江は舌打ちして起き上がった。囲炉裏のかすかな火を頼りに、戸口の方へゆく。

――おや? 林、いねえのか?

盛江は林の姿が無いことに気付いた。林のいるべきところには、毛羽の固まった毛布がぐしゃぐしゃのまま置かれているだけである。盛江は気を研ぎ澄ました――おかしい。寝息の数が少ない。

周りをよく見ると、岩崎がいない。岸谷も。他にも何人かいないような気がする。

――あいつら、こんな時間にどこにいったんだ?

気にはなったが眠気には勝てなかった。盛江は林の毛布の端っこを掴み、戸の隙間に突っ込んだ。

隙間風の奏でる笛の音はぱったりと止んだ。盛江はまたのそのそと自分の床に戻っていった。

もう何か月も見ないような総天然色の夢――内容は全く記憶にないが、心に満ち溢れるような幸福感の溢れる夢――それがもやもやと薄らいでいって、林はゆっくりと目蓋を開いた。

目の前の一面に藁ぶきが見える。これは――屋根裏だ。目尻にたまっていた涙がこぼれて頬を伝う。

「気が付いたね?」

真上からユヒトの顔が覗き込んだ。左右の束髪が緩く垂れ、やわらかな影を落とした。