「……ここは?」
「イマイ村だよ」
「ぼくは……どうしてここに?」
「きみは怪我をして倒れていたんだ」
「怪我?」
「崖の下に倒れていたのを、ここまで運んできたんだ」

崖の下――?

言葉をきっかけに、林の記憶はひとりでにたぐられた。夜、崖、たいまつの明かり。

――そうだ、沼田に呼び出されたんだ。そして……早坂に!

「いたたたッ」
「まだ起きてはだめだ」

起き上がろうとした林の肩をユヒトが抑えた。林は痛みの走った足に目をやった。布でぐるぐる巻きにしてある。

「かすり傷だよ。骨が折れていないのは幸いだった」

ユヒトは呟くように言った。

「他の二人は折れていた」
「二人?」
「イワサキとキシタニだ。ふたりは脚を折った。添え木をして、長老の秘薬を塗っている。先に起きて食事をとっているよ」

そうだ、あの二人もひどい目に遭ったのだ。

「二人が生きていてくれたとは……。ぼくはもう、だめかと」
「一体何があったんだい」

林はあの時の一部始終をひと通り思い出した。しかし、底知れぬ恐怖感が胸を圧迫し、なぜか口に出すことができなかった。

「とりあえず、きみも食事にする? あの二人に会うといい」

ユヒトの優しい言葉に林はうなずいた。藁ぶき家の外へ出ると、空はまだあけぼのの頃で、うす暗かった。

林は身体のあちこちが痛んだが、一人で歩くことができた。十メートルほど先の木の根のところに焚火があり、二人の人影があった。

地面の上に、岸谷と岩崎が上体を起こして座っている。不如意な足を投げ出したまま、何かの実をいそいそと口に運んでいる。

二人は林に気が付くと、顔を引きつらせてむせび泣いた。林も目から涙がこぼれた。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『異世界縄文タイムトラベル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。