初年兵教育

二日目からは、分刻みと言っても過言でないほどの確立された日課での生活が始まった。

起床ラッパで目を覚ますと、直ちに作業衣を着て掃除を始める。まずここで杉井たちは困難に直面する。初年兵四十名がいながら、箒が四本、雑巾が五枚しかない。素早い兵がこれらの道具を占領してしまうと、残りの者たちはうろうろするだけである。

古参兵の食器の片づけにしても、この掃除にしても、とにかく早い者勝ちである。極めて内容の乏しい仕事でありながら、こういうことをうまくこなすかどうかで古参兵の評価が変わってくる。

要領良くやれば、「あの兵隊は積極的で真面目である」となるし、やる気はあっても、仕事を逃せば「たるんでいる」ということになる。

古参兵の評価というのは、概ねこの二種類しかないし、後者の評価を受ければ、何かにつけて意地悪をされるのは目に見えている。更に困るのは、この種の評価は一度決まるとなかなか変更というものが期待できないことである。

古参兵に気に入られれば、多少のことは大目に見てもらえるが、一度嫌われたら、その後は良いことをしてもリカバリーがきかない。

杉井たち初年兵の最初の取り組みは、日々この古参兵の評価を上げるという情けない目標に向かっての競争であった。

※本記事は、2019年1月刊行の書籍『地平線に─日中戦争の現実─』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。