第二章 日本のジャンヌダルク

 【法隆寺(ほうりゅうじ)】

現存する世界最古の木造建築物であり、世界遺産にも登録されている法隆寺を知らない日本人はいないだろう。また日本ブームの影響で、近年は外国人観光客の多くがここを訪れるようになった。

それほど有名な寺だが、この寺に関わる謎はあまりにも多い。法隆寺の表門である南大門をくぐると、正面に国宝となっている中門が現れる。二層構造の入母屋(いりもや)造りの堂々たる建築物で、観光客の目当ての一つだ。

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しかしこの中門も多くの謎を秘めており、昔からさまざまな物議をかもしだしてきた。

「あれが、問題の中門ですね」

沙也香が、昨夜インターネットからダウンロードしてスマホに取り込んでおいた資料を見ながら、ひとりごとのようにいった。目はスマホを見たままだが、沙也香は案内役の坂上に問いかけている。

「そうです。あれが問題の中門ですわ」

坂上は沙也香の言葉を繰り返すと、ふと思い出したように、肩にかけたバッグの中を探しはじめた。

「そうや、忘れてましたわ。あんたに渡そう思うて、資料をコピーしといたんですわ」といいながら、十数枚の紙片をホッチキスでとめたものを沙也香に手渡した。

「すみません。ありがとうございます。助かります」

礼をいいながら渡された資料を見ると、最初のページに「中門の謎」と表題が書かれ、その内容が箇条書きにされていた。次のページは「金堂(こんどう)の謎」となっているから、見て歩く順番に謎を書き連ねてあるのかもしれない。