伊藤さんは、「スクラップ置き場にある鋼材の中から使えそうなものをいるだけ持っていっていいよ」と言ってくれました。私はスクラップの中から選り分けた鋼材を分けてもらいました。

そのおかげで、マンガン数台を作ることができました。涙が出るほど嬉しく、本当にありがたかったです。現在、豊前海ではこのマンガン漁は行われていないようですが、愛媛県宇和島あたりでは今でも期間を決めて行っているようです。

このころはまだ家に電話がなかったので、近所の商店にお願いして、呼び出し電話としてお借りすることになりました。名刺には電話番号の上に(呼)と入れていました。

電話がかかると、店のおばさんが「みのるちゃーん、電話よー」と五十メートルほど先から走ってきて呼び出してくれるのです。多い時は一日に何度もかかってくるので、大変気の毒に思っていましたが、嫌な顔一つせずに笑顔で取り次いでくれていました。

それからしばらくして、ようやく申し込みをして、待望の電話が我が家に付きました。漁師村の人たちは皆、気持ちのいい人ばかりで、いつかこの村に恩返しをしたいと思うようになりました。

カリフォルニアの小さな町で、奇跡は小さな少年から始まった。「世界を変える方法」という宿題に、12歳のトレヴァーが思いついたアイディアは『ペイ・フォワード』。

「ぼくが3人に何かいいことをする。彼らがお返しをしたいと言ったら、それを他の人に返してもらうんだ」

彼の計算では434万6721人の人間が幸せになれるはずだった。この途方もない計画の成功の鍵は、たったひとつーー人を信じること。トレヴァーの願いが叶うとき、奇跡は物語を超えて現実の世界へと続く……。

『ペイ・フォワード』キャサリン・ライアン・ハイド著(法村里絵訳、角川文庫、二〇〇二)