第1章 本書の重要事項

重要事項16 行動規範と感性認識─善悪、その根本的考察

(4)宇宙に普遍で絶対的善悪の不存在

善悪を定める要素の環境条件である自然・人為環境は地域や社会毎に異なり普遍ではありませんから、善悪は人間界に普遍ではありません。さらに、万物は流転し諸行無常・諸法無我であるこの世界にあっては、自然・人為環境も時の移ろいと共に移ろい行くものですから、不変という意味での絶対的善悪もないことになります。

この考察が指し示す重大なことは、「宇宙に普遍的で絶対的善悪」すなわち「神の善悪」という概念は言語明瞭であっても、成立しない無意味な概念であるということにほかなりません。

そうしますと、当考察の冒頭で述べた「我々はこの善悪を知らないがゆえに、我々にとって何の役にも立たない無意味なものである」という評価は当たっておらず、「そのような善悪、すなわち神の善悪なるものは存在しない」というのが正しい認識になります。

要するに、当考察によれば、宇宙万物に適用できる善悪などは存在せず、全宇宙にあって、人類に調和する人類間の行為を人類にとっての善そして調和しない行為を人類にとっての悪という人類のみにしか適用できない唯一の善悪系しか存在しないことになります(宇宙人が存在する場合は、そしてその善悪系が人類のものと異なる場合は、唯一ではなくなります)。

このことは、人類の善悪とは、たとえば神や仏やそれらの名を借りた宗教により「そうあるべきもの」として与えられるべきものではなく、人類が人類自らに照らして、人類自らが定め自らに適用するべきものであることを意味することになります。

その上で、さらに、心しなければならないことは、その善悪も人類を構成する全ての集団に普遍で絶対なるものは存在せず、又、ある時点におけるどのような善悪も時の移ろいと共に変わり行くものですから、まるで幻のようなものであるというのが善悪の本質であるということになります。そして、これは当然のことです。

なぜなら、なにしろ、善悪適用対象者である人類という生命体そのものが進化を含め全ての意味において流れ移ろい行く幻のごとき存在なのですから。