林は竪穴住居を出てユヒトに会い、「もうしばらくしたらここを発って笹見平に帰る」と伝えた。なかなか伝わらず苦労をしたが、何とか伝わった。ユヒトは、集落の若者と一緒に探検隊を笹見平まで送ると言ってきた。

昨日探検隊が通った道よりも安全な近道があるという。林は彼の親切に甘えることにした。ユヒトは長老に申し出て同道の許可を得、スソノやイギトらに声を掛け、支度にかかった。

十五分も経たないうちに、五人の縄文の若者が探検隊の泊まった竪穴式住居の前に揃った。手に槍や鉈、弓矢などの武器。身に厚手の革の上衣をまとっている。林は物々しさに目を丸くしたが、ユヒトがジェスチャーで示すには、どの道をどの時間に通っても、猛獣に出くわす可能性があるという。

昨日探検隊が何にも遭わずここまで辿り着いたのは奇跡に近いらしい。ユヒトは彼らが軽装で帰ろうとしているのが心配で、見送りを買って出たのだ。

探検隊にユヒトらを加えた十三人は、太陽の低いうちに集落を出た。長老をはじめ、村人が総出で村はずれまで送ってくれた。笹見平の八人にとって涙が出そうな情景だったが、集落の人々にしてみれば「笹見平は近所だから」「いつでもおいで」くらいの気楽さであった。

一行は森の中を進んでいった。先頭を縄文の若者三人、その後を八人の探検隊。しんがりを縄文の若者二人。

やがて森の向こうに笹見平が見えてきた。林は呆気にとられた。前日の半分以下の時間である。最初はどこか別の集落に立ち寄ったのかと思った。

そう思うのも無理はない。普段見たことの無い場所から笹見平キャンプ場を改めてみると、長い杭がずらりと並び、一丁前の砦のようである。トンカントンカンと、木を打つ音がする。目を凝らすと、そそりたつ杭のてっぺんに中学生男子の姿があった。何かを結わえようと懸命になっている。やがて彼はこちらに気付いたようで、ワーワー声を上げはじめた。

ユヒトは弓に矢をつがえ、声に向けて構えた。
「あれは仲間だ」林はびっくりして制した。
「ナカマ?」
「そう、仲間。敵じゃない」

ユヒトは弓を下ろした。すると他の縄文の若者たちも、構えていた弓を下ろした。

「ここが、ぼくらの、集落なんだよ」

林は砦と自分を交互に指差した。何度か繰り返し、ようやく彼らは理解した。