「アタシ、思うんですけど、わけも無く相手の下になることは無いと思います。だって、その後ずっと下でいつづけなきゃいけなくなるかもしれない」

「じゃあ、他に方法があるかな」
「何かプレゼントを用意していたらいいと思います」
「プレゼント!」早坂は失笑した。「何だか発想がおめでたいね」

「笑わないでよ」木崎は不服そうに目を剥いた。「現代の感覚で考えたら突飛かもしれないけど、たぶんこの時代で一番大切なのは食料です。いまのアタシたちの生活を振り返っても、そうでしょ? 縄文人だって同じはず。森で出会って『怪しい奴』と思われても、食べ物をあげたらきっと心を開いてくれると思います」

場に和やかな空気が流れた。不良少女じみた木崎の意見が、らしくも無く可愛く聞こえた。

泉は真面目な顔で
「こうなったら、やれることは全部やるに越したことはないわ」

「どういうこと?」林は尋ねた。

「いま出たアイデアを全部やるのよ。縄文人に会ったら、手を開いて武器を持っていないことを示して、相手の攻撃圏内でお辞儀をし、食べ物をプレゼントするのよ」

「大仰だね。それで大丈夫かな」と早坂。

「逆に考えてみて。笹見平に見ず知らずの縄文人が一人紛れ込んできて、これだけのことをされたらどう思う?」

林は少し考え
「少なくとも、敵じゃないとは思うかもね」
「そういうことよ」

結局、もし出会った時に渡すものとしてスイカを持っていくことにした。スイカは観光案内所の裏にささやかな畑があり、そこに植わっていた。取れ高が少なく、まとまった食料在庫にならないので、この際贈答用に、ということになった。

探検隊に決まった八人のメンバーは、早速支度にかかった。服装は、縄文人に会って驚かれないように地味な色の物を身に着け、虫刺されや植物のかぶれ対策に、長袖を選んだ。荷物は全メンバーのリュックで最も大きなものを数点選び、必要最小限の食料や道具、救命具を入れた。

懐中電灯、発煙筒、拾得ナイフ等々も入れられた。懐中電灯に使う充電式乾電池は、ソーラーパネルでフルチャージしたものである。贈答スイカは別の袋に入れ、割れないように藁で包んだ。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『異世界縄文タイムトラベル』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。