第一章

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十代も半ばになると、大人たちは博昭にこう言った。協調性がない。子供らしさに欠ける。欠ける、だと。博昭は怒りに震えた。

散々子供をばか扱いしておいて、少し成長すると今度は抑えつけようとする。まるで従順なペットにでもなれと言わんばかりに。

確かに成人式など必要ない。あんな親たちを満足させるためのショーなどやめればいい。そもそも二十歳になったからといって、突然、大人になどなれるわけがない。

それとも、漫画の主人公のように、ある日突然スーパーヒーローになれるとでも言うのか? 冗談じゃない。俺は子供でもないし、大人でもない。

俺は俺だ。俺は奴らの思うとおりになどならない。けっしてならない。大人も、この国もくそくらえだ。壊してやる。骸も、大人たちも、この世界も、全部壊してやる。

男は微動だにせずパソコンの画面を凝視していた。「工藤が若い女に入れあげている」という情報を入手したのはつい先日のことだ。すぐに工藤を尾行し、噂の真偽を確認させた。

噂は本当だった。工藤は女を監視していた。監視の目的は現時点で不明だが、隠し撮りしたビデオ映像を観るかぎり、あきらかに工藤は女に監視以上の思い入れを持っているように映った。女が男たちと楽しそうに談笑していたりすると、傍目にわかるほど嫌悪の表情を浮かべた。

意外に純情なんだなあ、工藤君。男は心のなかで嘲笑った。

女の身元は簡単にわかった。女は劇団『幻影機関』に出入りしており、劇団のホームページを探るとすぐに出てきた。雨水今日子。芸名かと思ったが、どうやら本名のようだった。

工藤……。男は心のなかで呟いた。おまえの弱点を見つけたぞ……。ケータイを手に取った。相手はすぐに電話に出た。

「工藤がご執心中の女がわかった」
「で、どうする?」

受話器の向こうで相手が言った。甲高い声だった。

「おまえ好みの女だ、恭平。極上だ。襲っちまえ」相手は黙った。呼吸が荒くなっている。

「レイプしろ」

男はベッドを見た。弟は深い眠りについている。あの事件以来、意識は戻らないままだ。

「いいのか?」
「メタメタにしろ。情報はこれからメールで送る」
「了解」

そう言った男の声は興奮で震えていた。男は電話を切った。ケータイを病室のデスクに置いて前かがみの姿勢になる。それからゆっくりと膝の上で両手を組み合わせた。

手で顎を押さえる。むくんだ弟の顔をじっと見つめる。

「工藤。死ぬほど後悔させてやる」

福田は声に出してそう言った。